死合わせのハンカチ


占い師:性別不問。気味の悪い占い師

お客:♂悩みを持つ男。裏路地で占い師と出会うが…

女:♀お客の元カノ


※口調、語尾変換、性癖転換あり


占い師「おや、見ない顔ですね。ここに来るのは初めてですか?」

お客「はぁ…なんとなくふらついていたらこの路地が目に入ったもので……」

占い師「それはそれは。
このような薄暗い路地に入り込むのが趣味というわけではなかったのですか。ああ、安心致しました。
もう少しで私は店をたたむ所でしたよ」

お客「店といいますと?」

占い師「なに、しがない占い屋ですよ。
しかしここは客もこなければ、
ぎらついた若者ばかりがたむろして
うっかり昼寝もできない。これは失敗しましたね」

お客「はあ…占い師と聞くと我々はなんでも知っているように思ってしまいますがね。はははっ」

占い師「なんでもは知りませんよ。
知り得るものしか知りません。」

お客「そういうものですか」

占い師「ええ。今の私がわかるのはあなたが私の客だという事くらいですねぇ…」

お客「はぁ?」

占い師「この先に店がありますので、
ついてきてくださいまし。
とって食いはしませんよ、安心してくださいな」

お客「あの、自分は……
まあ、暇だし…ついて行くか……」

占い師「さあさ、迷われないように気をつけて。
入り組んだ道が多いと、大変です
1度迷うと2度と元には戻れない。
同じ道に戻る事さえ難しいのですから」

お客「こんな道が…知らなかったな……。
あちらには何があるのですか?」

占い師「さあ?何があるのか私にもサッパリこっきり。
いつも同じ道があるとも限りませんからね」

お客「はあ。」

占い師「もうすぐで着きますよ」

お客「帰るのも大変そうですね
いつもあそこで客を待って…いや、探して?ううん…」

占い師「ああ、あそこは日当たりは悪くありませんからねぇ。」

お客「確かに、裏路地にしては明るかったですな」

占い師「ええ。少々目が悪いものでね。
あれくらい明るくないといけないのですよ」

お客「はあ、それは大変そうで…」

占い師「さて、着きました」

お客「ここ、ですか?」

占い師「ええ」

お客「ここは…」

占い師「おや、なにか?」

お客「あ、いえ…その……」

占い師「なんでも仰ってください。守秘義務はしっかりしていますよ」

お客「……その、以前付き合っていた彼女の家と雰囲気が似ていたものですから、驚いて」

占い師「それはそれは」

お客「別れてから、ああ…自分は納得してはいないのですが、
彼女の中ではもう終わった関係になっていて……まだ一ヶ月しかたっていないし、忘れられないんです」

占い師「そうですか、そうですか」

お客「きっかけは些細な行き違いで、彼女をまだ愛してるんです。
彼女も自分のことをまだ好きでいてくれる気がして…余計、諦めきれなくて」

占い師「なるほど。
あなたに必要なものがわかりましたよ」

お客「必要なものですか?」

占い師「あなたはまだ、捨てきれない選択肢を
その手に掴んでいる
それが彼女に繋がると信じているのですね。
いやはや愛というのは素晴らしいものです
美しいですね」

お客「いや、愛といわれると照れますね」

占い師「彼女が傍にいれば、あなたは満足するわけですね?」

お客「ええ!その通りです!!」

占い師「そのためならば、立場も何もかもを捨てる覚悟は?」

お客「もちろんありますっ」

占い師「ええ、あなたはそういう人でしょうね
では、これを差し上げます」

お客「ハンカチ、ですか
綺麗な模様ですね」

占い師「必要だと思ったら持ち歩いてください
要らないと思えば捨ててしまって構いませんよ」

お客「大切にします」

占い師「あなたの望みは、叶うでしょう。
ああ、水には気をつけてください」

お客「水、ですか…わかりました」

占い師「お代は後程頂きますので、今日は……
そうですね、今持っている一番大切な思い出を頂きましょう」

お客「お、思い出?!」

占い師「持ってるでしょう、写真。」

お客「ああ、写真のことか…それなら」

占い師「それで結構です」

お客「データではなく、写真を?」

占い師「ええ」

お客「わかりました……」

占い師「はい、確かに頂きましたよ。
それでは、ごきげんよう」







_______

お客「このハンカチ、どう使えばいいんだ?」

女「ただいま」

お客「お前、なんでここに?」

女「はぁ、今日はすごく疲れた……」

お客「お、おいそんな所で寝るな
風邪をひくぞ!」

女「はぁ、うるさいなぁ」

お客「俺はお前を思って─」

女「そこが、いいんだけどさ」

お客「え」

女「つい口煩くなるのよねー?」

お客「茶化してるのか?」

女「本気なのに」

お客「……まあ、伝わってるならいいんだが」

女「ちゃんと伝えてくれないとわからないよ」

お客「すまなかったな─その、俺は口が上手い方じゃないことくらい知ってるだろう?」

女「ふふっ仕方ないなぁ…」

お客「また、やり直さないか?今度はもっとお前を大切にする。約束するよ」

女「うん…」

お客「……!」

女「………明日も、よろしくね」





占い師「おや、あなたは─」

お客「ああ、この前の!」

占い師「これはこれは。
おや、デート中ですか?」

お客「ええ。
あの後、仲直りできまして。
あれからこいつ全然離れなくって……」

占い師「そうですか」

お客「アナタのおかげです!そうだ、お代をまだきちんと払っていなかった─」

占い師「まだ必要ありませんよぉ」

お客「え、でも…」

占い師「必要になりましたら、必ず頂きに参りますので─そうだ、今日は気をつけてくださいね」

お客「なにを、ですか?」

占い師「天気、あまり良くないようですので」

お客「ああ、ありがとうございます」

占い師「それでは、さようなら」

女「あれ、雨……?」

お客「ああ、早速降ってきたな」

女「今日に限って…もう、最悪ー!」

お客「デートなんていくらでもできるだろう」

女「……で、……あ………?……うん、だか……」

お客「うわ、風が酷いな!建物の中にはい…おい!どこに行くんだよ!!」

女「……!」

お客「おい!なんで動けないんだ!くそっ
待てよ!!なあ!聞こえないのか?!」


お客「くそ、前が見えな……」

SE:激しい雨の音

女「もしもし?うん、今駅についたところ!
ごめんね、さっきなんか電波悪くて……今は聞こえるよ
はやく来てよね。
このままじゃ、風邪ひくぞ!なんちゃって!」





占い師「おや?
ああ、やはりダメになりましたか。そうですか。
すぐに落としてしまったんですねぇ…。
うーん、やはりもっと“もつ”ように作らないといけませんか……やれやれ。
えー、もう聞こえないと思いますが決まり、なので言いますね?
あなたを望む【カタチ】に変えましたが、どうやら彼女にとってさして大切なものではなかったようでして…
そうですね、替えがいくらでもきく、ハンカチ程度だったようです。
落としてもまた新しいものを買えばいいですからね。
あなたは落とされたのですよ。
雨に流されてしまいましたねぇ。
お代を頂けなくて残念です。
はぁあ、次の客は一体いつくるのやら──」