ニーナ:♀不思議な女の子。成績抜群だぞ。


オーリャ(オリガ):♀ニーナのクラスメイト。ニーナが大好きだぞ。


マニアット:♂魔法学園の先生。変態だぞ。


ユリア:♀マリー達の先輩。お喋りが大好き



魔法学園 7話



ニーナ:「うん、術式は間違ってないし認識もおかしな所はない

君の場合は魔力を溜める作業に意識をもっていかれ過ぎてるだけじゃないかな」


ユリア:「ありがとうニーナ

自分じゃあよくわからなかったのよぉ。

でも、アドバイスを貰ったおかげで次はなんとかなりそうだわぁ!」


ニーナ:「アタシに聞くより、マニアット先生に聞いた方がはやかったんじゃないか?」


ユリア:「私はニーナに聞きたかったのよぉ?」


ニーナ:「役に立てたならよかったけど…」


オーリャ:「ニーナ!」


ユリア:「あらぁ、オルガさんこんにちはぁ」


オーリャ:「何を話してたの?」


ユリア:「やだぁ、こわい顔

私はただ、ニーナにアドバイスを貰っていただけよ。

ねぇ、ニーナ」


ニーナ:「あ、うん……」


オーリャ:「私のニーナにちょっかい出さないで」


ユリア:「まあ!オリガさんったら面白いことを言うのねぇ

“私の”ニーナ、なんて…ふふ、変な子」


ニーナ:「オーリャ、ユリアは何も悪いことはしていないんだ。大丈夫だから、落ち着いて」


ユリア:「ニーナったら優しいのねぇ。

ねえ、こんな子やめて私の王子様にならない?」


ニーナ:「はあ?君は何を言ってるんだ」


ユリア:「考えておいてちょうだいねぇ

それじゃあ私は、魔法の練習許可を貰いに行くわ。

ばぁいばーい」


ニーナ:「はぁ、なんだか距離感が掴めない子だな…っと、オーリャそんなに腕を引っ張られると少し痛いよ」


オーリャ:「ごめんなさい。でも、我慢できなくて……

ニーナが、みんなの憧れなのも人気者なのもわかっているのに…」


ニーナ:「そんなことはいいんだ。

アタシはオーリャがどうして怒っていたのかがわからない。

だから、どうするべきなのかわからないんだ」


オーリャ:「……貴女に、怒ったんじゃないの」


ニーナ:「…そう、よかった。

嫌われたらどうしようかと思ったよ」


オーリャ:「私がニーナを嫌うなんて有り得ない。

そんな事言わないで、私には貴女だけでいいの。本当よ」


ニーナ:「ありがとう、オーリャ。

君がくれる言葉はいつでもアタシをあたためてくれる」


オーリャ:「寒いの?」


ニーナ:「寒かった、のかもしれない。

あんなに耐えれたのが何故なのか今はわからないんだ。

オーリャ、君の事を知った時からもうアタシは変わってしまったのかもしれない」


オーリャ:「そう、そうなのね。

ねぇ、ニーナ今日の夜こっそり寮を抜け出してみない?」


ニーナ:「見つかったらただじゃすまなくなるよ」


オーリャ:「きっと夜には星が綺麗に見えるわ!」


ニーナ:「ああ、きっとすごく綺麗だろうね」


オーリャ:「私とニーナだけの秘密の約束よ」



ニーナN:オーリャが突然怒ったり、悲しんだりするようになってきたのはこの日からかもしれない。

夢見る乙女のように頬を赤らめたり、何かとてつもなく重く暗いものから逃げるように目が揺らいたり……彼女は忙しなく心を動かしていた。

そして、そのどれもがたまらなく目を離せなくさせた。

紫の瞳に影が落される日は必ず夜になるとこっそり寮を抜け出して会うようになっていった。



オーリャ:「私とニーナの噂、知ってる?」


ニーナ「噂?仲がいいとか、そういったものかい?」


オーリャ:「『白銀の王子様は紫の魔女に独占されている』ってやつ」


ニーナ:「ははは、なんだその噂」


オーリャ:「私はニーナを誑かしてみんなから王子様を奪った魔女なんですって」


ニーナ:「魔女に囚われるのはお姫様じゃないのか?

それに、アタシはオーリャと居たいから一緒に居るだけなのにね」


オーリャ:「ふふ、みんな貴女と仲良くなりたくてたまらないのよ」


ニーナ:「そうなのかな。

あ、オーリャ!流れ星だ。見れた?」


オーリャ:「また流れたわ。すごい。」


ニーナ:「こんなに……」


オーリャ:「私の愛しいニーナ、貴女と居ると私はとても満たされるの。

貴女が私を見てくれれば、生まれてきた事が嬉しくてたまらなくなる

貴女と触れ合っていると、今が永遠になればいいと思うの

一瞬でも、貴女が私と居るという事が幸福で愛おしくて……涙が出るくらい」


ニーナ:「……オーリャ、アタシには家族とか、よく分からないんだ。

孤児として育ってきて、魔力があったのは…まぐれだと思ってた。

友達とか、恋だとか、そういったものは全部アタシの外側にしかなかったんだ。

でもね、オーリャに会えて

アタシは魔力を持っていたのはオーリャ、君に会う為だったのかもしれないと思えるようになった

今、こんなにも世界が鮮やかであたたかく感じるのはオーリャがアタシにたくさんのものをくれたからなんだ」


オーリャ:「ニーナ、貴女が私を見つけ出してくれた日のことを今でも夢に見るわ。

遠くから見ているだけでもよかった。

けれど、貴女は私に手を差し伸べてくれた

世界がひっくり返るくらいの奇跡だと思ったわ」


ニーナ:「もしも、卒業してなかなか会えなくなっても

夜になれば君のことを思い出すよ」


オーリャ:「……卒業まで、ニーナと一緒にいられるかしら…」


ニーナ:「大丈夫、どんな事があっても離れないよ」


オーリャ:「本当に?」


ニーナ:「ああ、絶対だ」


オーリャ:「そう、ニーナが言うのなら本当にそうかもしれない。

私とニーナはずっと一緒にいられて、卒業してからも遊んだりこうして星空を見上げたりするのよ」


ニーナ:「こんなに星が祝福してくれてるんだ、心配することなんてなにもないよ」


オーリャ:「ええ、そうね。そうよね…!

ニーナ、私の神様、私だけのニーナ……ああ、どうしたら私の心を貴女に伝えられるのかしら」


ニーナ:「泣き虫だな」


オーリャ:「だって、こんなに……こんなにも、私は……っ

あいしてる、愛しているわニーナ……」


ニーナ:「おいで、オーリャ」


オーリャ:「寮に戻りたくない、朝なんて来なければいいのに…

こうしてずっと、ニーナの腕の中にいられたらいいのに」



ニーナN:オーリャがペンダントを触らなくなった理由が、震えていた理由が、アタシにわかったのは

季節が移り変わり、雪が積もり出した頃

生徒の大半が寮を出ていく冬季休暇に入って数日たったある夜だった。



オーリャ:「……どうして、こんな所に貴女が居るのかしら」


ニーナ:「オーリャの、声が聞こえた気がしたから」


ニーナN:オーリャは学園内の中で1番古く、1番高い

今はもう使われていない、図書館の屋上にいた


オーリャ:「どうしてかしら、貴女に知られたくないと思ってずっと隠してきたのに……

貴女に知ってもらいたくて仕方がないの」


ニーナ:「オーリャ、危ないからはやくこっちに…」


オーリャ:「私は死ぬわ」


ニーナ:「なにを、言って……」


オーリャ:「このまま、誰かに殺されるか

今この場で死ぬしか、私には選択肢がないの」


ニーナ:「オーリャ、君が何を言っているのかわからないよ」


オーリャ:「あのね、私は小さい頃から“アチラ”側にいたんだって。」


ニーナ:「話を、ちゃんと聞くから、頼むからこっちに来て」


オーリャ:「魔力を持った人間は魔法使いになるか、魔族になるか

そのどちらかなのだと、教えられたわ」


ニーナ:「……オーリャ、それは…」


オーリャ:「私は、ちょっと異例みたいでね

ほとんどの子達は生まれてすぐに魔族になっちゃうみたいで

私みたいに、大きくなってから魔族になり得る子って本当にごく稀にしかいないんだって」


ニーナN:デタラメだ、根拠の無い嘘だと喚いてしまいたかった。

できないのは、有り得ることだと納得してしまった自分がいたからだった


オーリャ:「どうして、生きているのかわからなかった。

はやく私なんて殺してしまえば、安全なのにっていつも思っていたわ。

このペンダントは、どれくらい魔族に近づいているかを測るものなの。

こんなものを持ち続けて、いつか殺される為に生きるなんておかしな話よね……でもね

そんな私でもね、生きていようと思えたのは

貴女のおかげなのよ、ニーナ」


ニーナ:「っ、まだ、まだもしかしたら他にも方法があって、君は死ななくても…殺されなくてもいいかもしれない……オーリャ、すぐに方法が見つからなくてもアタシが見つける。だから…」


オーリャ:「教会の庭にいた貴方をはじめて見た時、私の心臓はその時、はじめて動いたわ

美しい、神様のように見えた……

その神様も魔力を持っていると知った時にわかったの。

私は、神様に殺されるために生まれてきたんだって、あの綺麗な指が、腕が、息が私を救ってくれるって……

でも、貴女と話す内に迷うようになった。

私だけの神様、私の愛しいニーナ……貴方がはじめて抱きしめたのはおぞましい魔族になる人間だと知ったら、貴女がどんな気持ちになるのか……こわかった

だから、私は今日ここで死のうと思ったの

ペンダントはもうずっと前に壊れたまま……」


ニーナN:何も考えられなかった。喉がからからに乾いて声も出せず

気がついたら、オーリャが腕の中にいた。

力の加減がわからないまま、抱きしめていた


オーリャ:「ニーナ……」


ニーナ:「オーリャ、オーリャ……」


ニーナN:名前を呼ぶことしかできないアタシの背中をあたたかい掌が撫でた


オーリャ:「ありがとう、ニーナ……大好き

最後に、お願い……私を殺してください……」


ニーナN:オーリャの体が崩れるように、形を変えていくのを

優しい香りが消えていくのを

紫の瞳が私を写しているのを

ただじっと見ていたように感じたのに、体はアタシを裏切って動いていた。

召喚した武器が躊躇いなくオーリャを切り裂いていった。

オーリャが血を流すこともなく動かなくなってしまったのをどうすることもできずにいると

マニアット達が駆けつけてきた。



マニアット:「ニーナ、君は……」


ニーナ:「…知って、いたんですか」


マニアット:「……ああ。私を含め、この学園の教員達は全部知っていた事であり

いつか訪れる事だとわかっていた」


ニーナ:「アタシには、どんな罰がくだるのですか」


マニアット:「ニーナ君…。

……君は、たまたま魔族化した生徒に襲われ…」


ニーナ:「違う、アタシが殺した……」


マニアット:「今回のことは、仕方がなかった。

私達がもっとはやく動ければ」


ニーナ:「アタシが殺したんだ!アタシが、オーリャを、オリガを殺したっ」



ニーナN:その後の記憶は定かではない。

少し、眠っていたような

長い間、ぼうっとしながら起きていたような

そんな感覚しか残っていない。

オーリャの事がどうなったか、何度もマニアットが話に来たような気もするが

事実は変わらない。

新しく春が来る頃に、学園に1年生として通うよう通達が来た。

なにをしていたわけでもなく、ただ同じ場所にいたのだとそこではじめて気がついて

マニアットに通達に従う事を伝え、学園での日々が再開される朝

ただ、オーリャが好きだった髪を切ってアタシは歩き出した。

オーリャと何度も歩いた道を、オーリャと話しながら渡った廊下を、何も考えずに。




続く