ニーナ:♀不思議な女の子。成績抜群だぞ。
オーリャ(オリガ):♀ニーナのクラスメイト。ニーナが大好きだぞ。
魔法学園 6話
ニーナN:夕日が差し込む窓に、人気が少なくなった静かな廊下、真っ直ぐに向けられた潤んだ美しい紫の瞳が強烈に印象的だった事を覚えている。
オリガ(以下オーリャ):「私の名前はオリガ。オーリャって呼んでね」
ニーナ:「ああ。アタシの名前は─」
オーリャ:「ニーナ、でしょう?
貴女の名前を知らない人なんて、この学園にいないんじゃないかな」
ニーナ:「何故?」
オーリャ:「みんな貴女に夢中なの。
入学してたった2ヶ月で学園中の人気者で、貴女の事を『白銀の王子様』なんて呼ぶ人もいるのよ」
ニーナ:「それは、どこから突っ込めばいいのかな?」
オーリャ:「ふふ、ニーナはとてもかっこいいから。
さっきも、私の事を助けてくれて……」
ニーナ:「あんな困った顔で廊下をうろついてる子を見かければ、声をかけるのは当然だ」
オーリャ:「同じクラスの人達は通り過ぎていったわ。
男の子も、女の子も。遠くから見て、声をかけてはこなかった。
貴女だけよ」
ニーナ:「とにかく、探し物が見つかってよかった」
オーリャ:「うん。貴女が一緒に探してくれたおかげ。
ありがとうね、ニーナ」
ニーナ:「オリガ、もう日が暮れる
よければ一緒に寮まで、どうかな?」
オーリャ:「オーリャ」
ニーナ:「……オーリャ、一緒に帰ろうか?」
オーリャ:「喜んで!」
ニーナ:「…きれいだね」
オーリャ:「私が?それとも、夕日が?」
ニーナ:「君の目が、今とてもきれいだと思ったんだ」
オーリャ:「そうやって、笑っているニーナこそ本当に王子様みたい」
ニーナ:「いっそ、髪も短くしてみようかな」
オーリャ:「絶対に似合うわ!
でも、私は今の貴女が好き。
陽が透けるような銀色の長い髪が、動きに合わせて揺れて、その小さな背中を少しだけ見せたり隠したりしてしまうのも
長い手足も、揺らぎなく輝いている宝石のような瞳も……貴女のすべてが、美しいの」
ニーナ:「……照れるべきなのか、驚くべきなのかわからないな」
オーリャ:「ニーナはもしかしたら、いいえ。知らなかったでしょうけど、頭も良くて何をするにも完璧で、とっても人気者で─私はいつも、貴女を目で追ってたの。
だから今日、ここで声をかけられた事が奇跡みたいで
もしかしたら、夢でも見ているんじゃないかってさっきから思ってるの」
ニーナ:「アタシは完璧じゃない。そして夢でもないよ」
オーリャ:「手を握ってもいい?」
ニーナ:「勿論」
オーリャ:「…少し冷たい。でも、貴女がここにいるって感じられる」
ニーナ:「そう、ここにいる。
そしてそろそろ空腹でお腹が鳴りそうな、ただのニーナだ」
オーリャ:「じゃあ、急いで帰らないとね!」
ニーナN:その日をきっかけに、オーリャとはよく一緒にいる事が多くなった。
友人と呼べる相手が出来ないまま、学園に入り
ここでも今までと同じように過ごすのだと思っていたアタシにとって
オーリャは、はじめてアタシの内側に入ってきた人だった。
オーリャ:「私にとってあなたは神様なの」
ニーナ:「神様?」
オーリャ:「今この学園の中で、魔族と戦える魔法使いに近いのはニーナよ。
先輩達には悪いけれど、これは事実。
マニット先生だって口にしないだけで認めてるわ」
ニーナ:「オーリャにとって、魔法使いが神様なの?」
オーリャ:「いいえ、私の神様は貴女だけよニーナ」
ニーナ:「アタシはただの人間だ。魔力を持ってるだけの、ただの人の子にすぎないよ」
オーリャ:「ふふ、いつか貴女にもわかるわ
私、オリガというたった1人の女の子にとって貴方がどれだけ特別なのか」
ニーナ:「君の言う特別っていうのがなんなのかはわからないけれど
アタシ達はいずれ、魔法使いになって魔物達と戦う事になる。その為の場所と時間だ。
そうなれば、魔力を持てなかった人達にとって、街や、国にとって『特別』になる。
たった1人という特別ではないけれど、この学園にいるほとんどの子達はいつか特別になるんだ」
オーリャ:「……そうね」
ニーナ:「また、触っているね」
オーリャ:「え?」
ニーナ:「そのペンダント。君は何かあるとすぐに触る癖がある」
オーリャ:「これは大切なものだから」
ニーナ:「少し変わった形だけど、時計に似ているね」
オーリャ:「時計みたいなものでもあるのよ。
なくしてしまった時は、本当にどうしたらいいのかわからなかった。
だから、ニーナが声をかけてくれた時
とても、とても救われたのよ」
ニーナ:「君の大切なものを見つけられたのは幸運だね」
オーリャ:「ニーナ、どうかこれが動きを止めたとしても私の事を忘れないでいて
貴女の事が大好きだったオリガという女の子がいた事を、忘れないで。」
ニーナ:「…オーリャ、そんな顔をしないで。
卒業しても、忘れたりなんかしないよ」
オーリャ:「お願いよ、お願い……私の神様」
ニーナ:「約束する、だから泣かないで」
オーリャ:「……ニーナの腕の中にいると、私はとても安心できるの。
あたたかくて、ニーナが私を守ってくれているみたいで…」
ニーナ:「オーリャが笑ってくれるなら、何度だって抱きしめるよ」
オーリャ:「ありがとう、大好きよニーナ…」
ニーナN:背中に回された腕が震えていた事も、オーリャが言っていた事
そして彼女自身の事をアタシはなにもわかっていなかった。
続く